しかし ・・・ ふたりが病室に入ったとたん いきなり罵声と共に枕が飛んできました。
その次には 点滴がチューブごとすごい勢いで飛んできます。
ふたりはなんとか かわしました。
ちくわさんは プイと横を向いたまま
いつもの憎まれ口を続けます。
まあ それだけ元気になったということなのでしょう。
ひらめさんはホッと胸をなでおろしています。
ひらめさんはわかっていました。
ちくわさんが昔から外見だけで仲間はずれにされていたこと ・・・
何もしていない時だって 濡れ衣をきせられたり 後ろ指をさされたりしていたこと ・・・
本当はとても寂しがり屋なのに いつも強がってばかりいることも ちゃんと知っていたのです。
そっぽを向いていた ちくわさんが 天井を見つめて ぼそっとつぶやきました。
「何を言っているんですか!!べんべん!」
ひらめさんは、珍しく強い口調で言いました。
「 ちくわさん、あなたが居なくなってしまえばいいなんて思っていたら 我々はここにはいませんよ!!
あなたが今まで辛い思いをしてきて、誰も信じたくない気持はわからないではありませんべん。
でも、そんな過去も 今あるあなた!!そう、ちくわさん、あなた次第で変えられるんですよ!!べんべん 」
ちくわさんが「えっ?」という顔をしてふり向きました。 ひらめさんは続けます。
「あなたはひとりぼっちじゃないですべん。 ほら我々だっているじゃありませんか。
大ドババさんだって心配していましたよ。 誰だって一人じゃ生きていけないのです。べんべん 」
ドバトさんも口を挟みます。
ちくわさんは ガバッと頭からふとんをひっかぶってしまいました。
声を殺して泣いているのがわかります。
しばらくして ふとんの中から、かすれるような声が聞こえてきました。
「 オレ ・・・ じぶんでもどうしてだか よくわかんねぇんだけどよお
いつも気がつけば あの店に足が向いていたんだ ・・・
でもさ~ あの♪ べべん べん べん ♪ ってやつを聴くとよお~
オレ ・・・ 大声で泣いてしまいそうだったから
一度だってまともに聴くことができなかったんだよお ・・・
なんで あんなに懐かしいんだよ~ ちきしょ~ ちきしょ~ 」
ちくわさんは そう言うと泣き疲れて眠ってしまいました。
懐かしいのは ひらめさんも同じでした。最初から妙にちくわさんの存在が気になっていたのです。
何かを思い出しそうになった その時 ・・・
またまたドバトさんのひと言で ひらめさんは朝から何も食べずに空腹だったことに気がついたのです。
「過去のトラウマやこだわりは
今からだって変えることができるべん!!」
ひらめさんは自問自答しながら 無意識に
ちくわばかりを おかわりしていました。
東の空が明るくなり始めました。
さあ また一日の始まりです。
翌々日、すっかり回復して退院してきたちくわさんが
真っ先にやってきたのは いうまでもなくこのお店でした。
ひとりひとりの想いが伝わってきます。
ちくわさん ぶっ倒れたことも
悪くはなかったみたいですね!